若い頃は純心でした。私を取り巻く友たちとのこの時まで共に過ごした想い出の数々が懐かしいシーンとなり蘇ってきます。遠い時の隔たりの中にも輝きに彩られた思い出は、恰も今この時点でもう一人の自分が歩きだすように私の胸裏に鮮やかに息づいております。
記憶の中でも卒業式は晴れの日ばかりであったようです。K中学校の卒業式です。この日ばかりはいつもとは違い、緊張感の中にも心の内は晴れがましい気持ちで一杯でした。私達は校舎へと続く雪解けの道を歩いて行きました。周囲は初春を思わせる穏やかな大気が漂い、この日を祝福する青く高々と輝く空が広がっていました。私はその景観の中を明らかにまだ未知である明日に向かい進んでいました。過ぎ去る時に別れを告げた、これから開く新しい未来への門出です。視界には3年もの間、馴染み親しんできた私たちの懐かしい校舎が門出を象徴するかのように朝の陽光に白く輝いていました。祝福する友たちの鈴なりの笑顔が私たちを待つ校庭には輝いていました。
後方に参観する父兄達を望みつつ、拍手の湧く中を館内へ入ってゆきました。校長以下の先生方もすでに壇上から私たちの入場を拝顔され、拍手されております。全員が着席すると拍手が収まり、それまでは其々の心に抱いていた想いが私の中でも水を打ったように静収し、館内も厳粛な雰囲気に変わっていました。式事に対する厳粛な思いに、この時点で変わっていったのです。
教頭の式事が開始され、校長の挨拶が始まりました。教頭、父兄代表、最後に生徒代表の言葉と続き、卒業書の授与です。名前が呼ばれる都度拍手が立ち、呼ばれた友が一人ひとり列から離れ、壇上に上がって行きました。
私の場合はあの時は、授与の言葉の間がとても長く感ぜられて、ただ緊張のなかにじっと佇んでいた事が思い出されます。そうした緊張感うちにも厳かに卒業証書が手渡されました。拍手の中、私は壇を下りて行きました。
荘厳な式次第のうちに全員の授与が滞りなく終了し、やがて舎内には「仰げば尊し」の合唱が響き渡り、あちこちの席から乱れる声が交ってきました。